パリは、華の都ですよね。ショーウインドウの美しさには、いつも感心させられてしまいます。
大きな店では、専門の飾り付け師を雇っているんだそうですね。それとは別にあっさりとした店構えに、古本屋があります。パリの「ブキニスト」もまた、名物のひとつでしょう。
とにかく大きな箱を開くと店になる仕掛けですから、気取り様もないのですね。
一時期、ブキニストに通ったお方に、佐藤 朔がいます。明治三十八年にお生まれのフランス文学者。ある時には「慶應」の塾長でもあったお方です。
佐藤 朔は、昭和三十一年にパリに旅しています。その時の紀行文が、『セーヌ河畔みぎひだり』なのです。
「………おどろいたことにジャバネックスが主人ぜんとして座っていた。そこは彼の店だったのである。」
当時、有名だった詩人の、フィリップ・ジャバネックスのこと。
ある時、佐藤 朔がパリのマザリーヌ通りを歩いていて、詩の専門誌を並べている店を発見。店の中に入ってみると、ご本人の詩人がいた。そんな話になっています。
その時代のパリでは、詩人が経営する古本屋は珍しくなかったそうですが。
佐藤 朔は、ジャバネックスからサイン入りの著書を頂いたとも書いてあります。
古書店では時に文人の手紙なども扱っているらしい。たとえば、ボオドレエルの手紙。35000円だったという。アンドレ・ジイドの手紙も同じく、35000円だったそうですが。
まあ、さすがにパリの奥は深いということなのでしょう。
パリが出てくる小説に、『現代史の裏面』があります。1844年に、オノレ・ド・バルザックが発表した物語。
「………商売の上での腐敗堕落の風がパリの三、四の銀行に多かれ少なかれたたりをなしたさいにも………」
「モンジュノ銀行」は、びくともしなかったと、バルザックは言っているのですね。
バルザックの『現代史の裏面』には、こんな描写も出てきます。
「ゴドフロワはニスぬりの靴をはき、黄色い手袋をはめ、シャツにはぜいたくなボタンをつけ………」
ここでの「黄色い手袋」とは、当時の洒落者が愛用したものです。
また、「ニスぬりの靴」はエナメル革のことでしょう。エマイユ。「パテント・レザー」patent leather とも言います。
革の上に特別のラッカーを塗って光らせたもの。これは靴墨を使わないために。女性とダンスをしても相手のドレスの裾を靴墨で汚さないための配慮として。
どなたかパテント・レザーのパンプスを作って頂けませんでしょうか。