フォークとフェドーラ

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フォークは、肉刺のことですよね。明治の頃には、「肉刺」の言い方があったんだそうです。
fork と書いて「フォーク」と訓みます。たとえばステーキをナイフで切り分けるとして、フォークで押さえておかなくては、切るに切れないでしょう。
まずナイフがあって、それからフォークが一般的になったんだそうです。十七世紀から十八世紀にかけて。中世のヨオロッパでは主に手で食べたと、伝えられています。そのためのフィンガー・ボールであり、ナプキンだったのでしょう。

「まあ似たもんだ。君と僕の違位かな」と宗近君は肉刺を逆にして大きな切身を口に突き込む。

夏目漱石が1907年に発表した小説『虞美人草』に、そのような一節が出てきます。これはハムを食べている場面なんですね。
夏目漱石は、「肉刺」と書いて「フオーク」のルビを添えています。ハムの脂身の大小についての会話。

「………何だ欧羅巴の奴等は日本人が臺所でする事をお座敷でするから、ナイフとフオオクが入るのだ………」

1909年に、森 鷗外が発表した小説『大発見』に、そのような文章が出てきます。場所は、ドイツのベルリンに置かれいるのですが。
ほぼ同じ時期の小説に、漱石は「肉刺」と書き、鷗外は「フオオク」と書いているわけですね。

フォークが出てくる小説に、『マンハッタンでキス』があります。2001年に、デイヴィッド・しっくらーが発表した物語。

「ダナは首をすくめた。ナイフとフォークをテーブルに置く。」

これは「ダナ」が食事をしている場面として。
また、『マンハッタンでキス』には、こんな場面も出てきます。

「チェッカーズとダナのテーブルのふたつ隣のテーブルには、フェドーラをかぶった男とシルクのドレスを着たカップルがいた。」

これは「フラット・マイルズ」というレストランでの様子。
「フェドーラ」fedora は、カーヴの深いソフト帽のこと。1885年のヴィクトリアン・サルドーの芝居から流行することになった帽子。
イギリスでは、「トリルビー」trilbyと呼ばれることもあります。1895年の芝居『トリルビー」から。作者は画家の、ジョージ・デュ・モーリア。同じく演劇での女優がかぶった男の帽子に端を発しているのです。
どなたか十九世紀末のフェドーラを再現して頂けませんでしょうか。

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