カクテルは、混合酒のことですよね。何かの酒と、何かの飲物とを混ぜると、たちまちカクテルがあらわれる仕掛になっています。
cocktail
と書いて「カクテル」と訓むこと、申すまでもありません。そもそもそもはアメリカ英語だったという。1806年頃から用いられている言葉なんだそうですね。
黒ビイルにシャンパンを加えると、「ブラック・ヴェルヴェット」。すぐにでも飲んでみたいなります。カクテルもまた名前が大切なのでしょう。
おしゃれ語のひとつに、「カクテル・ハット」があります。うんと小型で、うんと凝った帽子。女の方のカクテル・ドレスにふさわしい帽子のことですね。
カクテルが出てくる小説に、『泥濘』があります。大正十四年に、梶井基次郎が発表した創作。
「混合酒を作つてゐるのを見てゐる。種々な酒を一つの器へ入れて蓋をして振つてゐる。はじめは降つてゐるがしまひには器に振られてゐるやうな恰好をする。洋盃へついで果物をあしらひ盆にのせる。その正確な敏捷さは見てゐて面白かつた。」
これは当時、銀座四丁目にあった「ライオン」で、主人公が眺めている場面。
主人公は御茶ノ水から銀座まで歩いて。外は、雪。それで、『泥濘』の題になっているのでしょう。少なくとも大正時代、「ライオン」ではカクテルの用意があったものと思われます。
梶井基次郎は、「混合酒」と書いて、「カクテル」のルビをふっているのですが。
物語の主人公は、途中で、パンを買ってもいます!パンの値段、八銭だったとも。
主人公は、「ライオン」を出た後、どこへ行くのか。
「ライオンを出てからは唐物屋で石鹸を買つた。」
そんなふうに、書いています。
「唐物屋で石鹸」。ということは、舶来石鹸だったのでしょう。梶井基次郎は当時、ハイカラ趣味があったものと思われます。
カクテルが出てくる随筆に、『開口閉口』。もちろん、開高 健の随筆集です。この中に。
「ポルトにナツメグをふりかけるというのはいまではあまり聞かないが、この実の香りは高くて気品があるから、カクテルにはよく使う。」
いったい何の話なのか。ロオトレックの話。ロオトレックはカクテルが大好きで、そのための用意にいつも、ナツメグとおろし金とを持ち歩いていたんだそうですね。
開高 健の『開口閉口』には、タイへ旅した話も出てきます。
「胴回りがだぶだぶに作ってあって、はいてから両端をつまみよせ、くるくるとからみあわせて、ズボンの内側へさしこむ。それだけである。」
開高 健は、タイで穿いた民族衣裳のズボンを、そのように書いています。絹地だから快適だった、とも。
タイ式ズボン。「カーンゲーン」でしょうか。
どなたか絹のタイふうのカーンゲーンを仕立てて頂けませんでしょうか。