アトリエとアルスター・コート

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アトリエは、画室のことですよね。もっと広くは、「仕事場」でしょうか。
atelierと書いて「アトリエ」と訓みます。もともとの意味は、「木々の重なり」。つまり「木工場」の意味だったらしい。それがだんだんと、工芸家などの作業場を指すようになったのでしょう。
「アトリエ・ド・タイユール」は、「テイラーの仕事場」の意味になります。とにかくそこに行けば服が縫えるようになっている場所のことです。アトリエは、いずれにしても、画家だけのものとは限らないのでしょう。
アトリエが出てくる小説に、『うたかたの記』があります。明治二十三年に、森 鷗外が発表した短篇。

「………一週が程には巨勢君の『アトリエ』とゝのふべきに………」

これは1886年頃のミュンヘンが舞台になっています。「巨勢君」は、画家という設定なので、アトリエが出てくるのも当然でしょう。
1886年頃、森 鷗外はミュンヘンで、画家の原田直次郎と友人に。この原田直次郎が、「巨勢君」のモデルだと考えられています。
物語の中で、「巨勢君」は、マリイと恋愛するのですが。これは実際に原田直次郎にあった話なんだそうです。
偶然ですが、原田直次郎と森 鷗外とは、同じく1884年に、ドイツに留学しています。年齢は、鷗外が直次郎の一つ上だったのですが。

アトリエが出てくるイギリスの小説に、『人間の絆』があります。1915年に、サマセット・モオムが発表した長篇。

「ちょうどこの頃ローソンが、ラスパイユ大通りから脇に入った通りに空いている小さなアトリエがあるが、二人で共同で借りたらどうか、という提案をした。部屋代はとても安かった。」
これは当時の巴里での話なのですが。物語の主人公「フィリップ」が友人に誘われる場面。『人間の絆』は一種の自伝ですから、たぶんこれに似たことがあったのでしょう。
また、『人間の絆』には、こんな描写も出てきます。

「………またある時は狩猟の帰りであるかのように、ニッカーボッカー、ハリス・ツイードのアルスター・コート、あみだにかぶったツイードの帽子といういでたちのこともある。」

これは当時の巴里の街を歩く、ある俳優の着こなしとして。
「アルスター・コート」ulster coat は、もともと旅行用の大外套のこと。
アイルランドのアルスター地方で織られていた厚手の紡毛地で仕立てられたので、その名前があります。
軽いアルスターのことを、「アルスターレット」と呼ぶ場合があります。
本物のアルスターがいかに厚手だったかを想像させるものでしょう。
どなたかうんと厚手のアルスター・コートを仕立てて頂けませんでしょうか。

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