大金とタキシード

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大金という店があるんだそうだすね。鳥料理専門店。「だいきん」と訓みます。
鳥を食べるのに「大金」が必要となれば、たいへんなことですが。これですから日本語は、難しい。
「大金」は今も浜町にあって、良心的。明治二十五年の創業というから、古い。明治の頃の「大金」は、鳥ばかりでなく、雉を食わせたんだそうですね。
そんな風に考えると、むしろ明治のはじめの人のほうが、いろんな種類を口にしていたのではないでしょうか。
たとえば、「しゃも鍋」。しゃも専門の店もあったという。
雉は日本だけでなく、ヨーロッパでもよく食卓に上る。まあ、ジビエのひとつなんでしょうね。多く、「フェザン」 phasian と呼ばれます。
フェザンは、古代の都市、コルキスに遡りとの説があります。昔むかし、コルキスには、ファシスPhasis という川が流れていて、ここから世界 中に広まったので、「フェザン」の名前になったんだとか。
今から古代都市には行けませんが、フェザンを味わうのは不可能ではないでしょう。
それはともかく「大金」の出てくる小説に、『大津順吉』があります。もちろん、志賀直哉。『大津順吉』の主人公は体調を崩して後、やがて快方に向かう。で、頭の中に食べたいものが浮かんできて。

「竹葉の鰻に、風月の西洋料理に、大金の鳥に、梅園の汁粉に…………」。

してみると。志賀直哉は、甘いものもお好きだったのでしょうね。『大津順吉』は自伝とも言える小説。時代背景は、明治の末年。この中に。

「私が、燕尾服からタキシードと順々に紹介された。」

これは小説に描かれた「タキシード」の、比較的はやい例でしょう。
夏に、純白のタキシード、悪くないですよね。

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