鏡は、ミラーですよね。たとえば、「バック・ミラー」だとか。ファッションのほうでは、「ミラー・コーティング」なんて表現もあります。
でも、英國人に言わせますと。鏡のことを「ミラー」というのは、大衆的なんだそうですね。これが上流階級になりますと、「ルッキング・グラス」。「見るためのガラス」。まあ、それはそうではありますが。上流を気取るのも、楽ではありませんね。
1871年に、『鏡の国のアリス』が出ているのは、いうまでもないでしょう。もちろん、ルイス・キャロルの作。ルイス・キャロルは、1865年に、『不思議の国のアリス』を出して好評。いわばその続編として『鏡の国のアリス』が出たわけです。
『鏡の国のアリス』の原題は、『スルー・ザ・ルッキング・グラス………………」。ルイス・キャロルはお上品な表現がお好きだったのでしょう。ルイス・キャロルの本名が、チャールズ・ラトウイッジ・ドジソンで、オックスフォード大学の、数学教授だったのはご存じの通り。
1865年の『不思議の国のアリス』は、一冊、4シリング。これは当時の常識としては高価だったという。ところが『鏡の国のアリス』は、一冊、1シリング。どうして1シリングにしたのか。ルイス・キャロル自身は、こんなふうに言っています。
「わたしは、この本の出版にかける経費が丸ごと損失になったとしてもかまわないと考えることにしました。」
『鏡の国のアリス』の「序文」に、そのように書いています。『鏡の国のアリス』が出てくるミステリに、『クロッカスの反乱』があります。1985年に、ギャビン・ライアルが発表した物語。
「何かふざけているような感じを与えるし、『鏡の国のアリス』を読んだことを知られる。」
これは、主人公のハリイ・マクシムの科白。自分の暗号名にジャバウォークを選んだので。
また、『クロッカスの反乱』には、こんな描写も出てきます。
「茶と緑の、俗に“カミイ”と呼ばれる迷彩ジャケット……………………。」
ここでの「迷彩ジャケット」が、カムフラージのことであるのは、言うまでもないでしょう。カムフラージのジャケットを略して、「カミイ」のスラングがあるものと思われます。
私に果たしてカムフラージが似合うかどうか。ミラーかルッキング・グラスで確かめることにいたしましょう。