レッテルは、ラベルのことですよね。でも、少し前まではよく「レッテル」といったものです。「壜詰のレッテル」だとか。
「レッテル」は、大槻玄沢の『蘭学階梯』に出てくるそうですから、古い。『蘭学階梯』は、天明八年の刊行。西暦の、1788年のことになります。
レッテルは、要するに、オランダ語。l ett er 。ほんとうは、「文字」の意味だったという。たしかにレッテルには文字も書いてありますがね。
レッテルが出てくる小説に、『笹まくら』があります。丸谷才一が、1966年に発表した物語。
「それはたしかに、ずんぐりした形、古風なレッテルのオールド・パーだったからである。」
ある蕎麦屋での、光景。丸谷才一は、ウイスキイなら、「オールド・パー」がお好みだったのでしょうか。
オールド・パーは、英國の、実在の人物だったそうですね。本名は、トオマス・パー。1483年に、イングランド西部、シュロップシャー州、シュルズベリーに生まれたことになっています。
トオマス・パーは、105歳になった時に反省。「これまでは節制しなかったなあ」と。それで、122歳の時に、二番目の奥さんと結婚。で、お二人の間にベイビーが生まれたそうですから、これは拍手でしょうね。
1635年に。「あまりに長生き」だとして、宮廷へ招かれる。宮殿で歓待されて、ご馳走ぜめ。それでぽっくりお亡くなりに。計算上は、152歳の長寿ということになりますが。
ウイスキイのレッテルにしたくなる気持もよく分かりますよね。
レッテルが出てくる小説に、『ストーリーテラー』があります。1991年に、アレクサンドル・カバコフが発表した物語。
「半分空いたコニャックのボトル ーー いかにもソ連製らしくレッテルが傾いたまま貼ってある………………。」
もしかすれば当時のソ連では、レッテルを手で貼っていたのでしょうか。
『ストーリーテラー』には、こんな描写も出てきます。
「エウストまでの大きな毛皮裏の革ジャンパー………………」。
「ユーラ」という人物の着こなし。ファー・ライニングのレザー・ジャケットなら、暖かいでしょうね。わざわざ、「暖かいぞ!」と書いたレッテルを貼ることもありません。