ビーフイーターとピンヘッド

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

ビーフイーターは、倫敦塔の衛兵ですよね。日本でのビーフイーターのわりあいはやい紹介は、夏目漱石かと思われます。

「彼は倫敦塔の番人である。絹帽を潰した様な帽子を被つて美術学校の生徒の様な服を纏ふて居る。………………。」

ここに「彼」とあるのが、ビーフイーターであるのは言うまでもないでしょう。漱石の『倫敦塔』は、それほど長くはありません。が、名文。いや、名文とは何かの、手っ取りばやい見本でもありましょう。
漱石が倫敦塔を見物に行ったのは、明治三十三年十月三十一日のことだったそうです。倫敦に、十月二十八日に着いて、三日後のこと。地図を頼りに、歩いて行ったと考えられています。
ビーフイーターは、ヘンリー七世の時代にはじまっているんだとか。つまり十六世紀はじめの衣裳を変えることなく着ているわけですから、クラッシックなのも、当然でしょうね。今からざっと五百年ほど前の服装ということになりますから。このあたりの古典趣味も、いかにも英國らしい。
ビーフイーターはなにも見物するだけでなく、飲むこともできます。ジンを。ビーフイーター・ジンを。「ジェイムズ・ボロー社」の「ビーフイーター」。1820年の創業。アメリカ人の好きなジンの銘柄でもあります。
ビーフイーターが出てくるミステリに、『ベルリンの葬送』があります。レン・デイトンが、1964年に発表した物語。

「バーテンにちらっと袖口をみせて、ビーフイーター・マーティーニを注文した。」

つまり、ジンの銘柄を指定したということなんでしょう。また、『ベルリンの葬送』には、こんな描写も出てきます。

「着ている服は上等のベルリン仕立てで、生地は英国製のピンヘッド・ウーステッドだった。」

これは、ジョニー・ヴァルカンという人物の着こなし。「ピンヘッド」は生地の名前。表面の小さな点が「ピンの頭」のように想えるので、ピンヘッド。やはり、古典柄のひとつ。
ピンヘッドのスーツを着て。ビーフイーターを飲みに行くとしましょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone