カンガルーは、可愛い動物ですよね。カンガルーは時と場合によって、後脚だけで立つことができるんだそうですね。いや、そればかりか、前脚を使ってのボクシングさえも。
たとえば、吉行淳之助に、『カンガルーと拳闘』という題の随筆があります。吉行淳之助の友だちが、小学校のころに、カンガルーと拳闘をした話が中心になっているものです。
その頃、見世物小屋があって。「カンガルーと拳闘させてあげます、ただし大人はお断り」の貼紙が。これを見たA君は、それに挑戦。
翌日、学校に行くと「カンガルーと拳闘した子」として、有名なっていたというのですが。
吉行淳之助は『日記』を書くと、それがたちまち随筆になってしまうお方でもありました。
ひとつの例ではありますが。昭和三十三年の九月に、こんな『日記』を書いています。「某月某日」として。
世田谷区尾山台までの、うろ覚えの道筋を自信ありげに阿川に教え、たいへんなとおまわりとなる。
「阿川」とあるのは、阿川弘之。ある日、阿川弘之がルノーでやって来て。「安岡の家へ行こう」と誘う。阿川弘之と吉行淳之助とが、安岡章太郎のところに行くと。珈琲を淹れてくれる。
「このコーヒー挽きがいかに優秀か、それに比べてこのフィルトルがいかに駄目であるかを説明する。」
ということは、安岡章太郎は昭和三十三年に、ドリップ式珈琲を好んでいたものと思われます。
カンガルーが出てくる小説に、『ジュスティーヌ』があります。1957年に、ロレンス・ダレルが発表した物語。
「カンガルーの袋よりも柔らかな、粘液の詰まった声門を。」
これは身体の説明をしている場面。また、『ジュスティーヌ』にはこんな描写も出てきます。
「彼は時計の鍵、ミュンヘン製の美しい金の懐中時計の鍵を探しているところだ、と言った。」
この、「金の懐中時計」は、むかしお父さんから譲られたもの、という設定になっています。
今、懐中時計はふつう龍頭で巻きあげる。でも、もっと古い時代には、専用の鍵で、巻いた。錠を開けるための鍵ではなく、バネを巻くための、鍵。まこと、優雅なものであります。少なくとも古典的な懐中時計とは言えるものでしょうね。