さくらんぼは、美味しいものですよね。たとえば、佐藤錦だとか。なんだか作りもののように、美しい。
贔屓目ではありましょうが、日本のさくらんぼは眺めているだけで、涎がわいてきます。
フランスにもさくらんぼがあることは、『さくらんぼうの実る頃』の歌があることでも、間違いないでしょう。『さくらんぼうの実る頃』は、シャンソンの名曲であります。
ジャン・バティスト・クレマンの作詞。アントワーヌ・エーメ・ルナールの作曲。1885年の発表だと、伝えられています。ただし、その献辞には、クレマンはこのように書いています。
「1871年5月28日。フォンテエヌ・オ・ロワ通りの、看護婦にして勇敢なる市民、ルイーズに捧ぐ」
これは1871年の普仏戦争の時の情景。激しい戦さのさなか、巴里の城壁内、フォンテエヌ・オ・ロワに、若く、美しい女が。兵士たちは皆、「危険だから、帰りなさい!」でも、二十歳くらい女性は。
「私は、看護婦。なにかお手伝いがしたい」
こう言って、立ち去らない。そのうち、実際に怪我人が出て、ルイーズは手当を。
それを近くで見ていたクレマンに、『さくらんぼうの実る頃』の詩が浮かんだという。
さくらんぼが題につく小説に、『さくらんぼジャム』があります。庄野潤三が、1993年に発表した物語。この中に。
「幸いに家に井伏さんが訳した『ドリトル先生動物全集』が揃っているのだから、フーちゃんは恵まれているといわなくてはならない。」
『さくらんぼジャム』には、何度か、「井伏鱒二」が出てくるのですが。
庄野潤三は井伏鱒二に私淑した作家でもありますから、当然でもあるのでしょう。
1964年に、井伏鱒二が発表した随筆に、「サクランボ」があって。
「花は二年目に咲き、三年目には実を結んだ。垣根の外で、「おや、サクランボだ」と云つて立ちどまる人がゐた。」
これは井伏鱒二が自宅の庭にサクランボを植えたときの話なんですが。
サクランボが出てくる紀行文に、『ヨーロッパ旧婚旅行』があります。昭和五十五年に、小島直記が発表した文章。
「八百屋でサクランボを買う。大きな紙袋にいっぱいのやつが三スイス・フラン、日本円で約四百円だというと、女房は信じない。値段の安さはともかく、そのうまさにまた驚いている。」
『ヨーロッパ旧婚旅行』には、こんな描写も。
「市内観光にそなえて、おたがいに衣裳直し。私はサハリをぬぎ捨て、ワイシャツに背広、セーターも着た。」
もちろん、小島直記の服装。小島直記は、「サハリ」と書いていますが、おそらくサファリ・ジャケットのことなんでしょう。
ということは、小島直記、旅の移動中は、サファリ・ジャケットだったのでしょうか。まあ、旅着としてのサファリ・ジャケットは、最適でしょう。
街で買ったさくらんぼをそのまま食べるにも便利でしょうし。