シャルヴェとシャークスキン

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シャルヴェは、パリの有名店ですよね。Ch ar v et と書いて、「シャルヴェ」と訓むわけです。
1838年に、エドワール・シャルヴェがはじめてシャツ屋なので、その名前があります。シャルヴェはシャツのみならず、クラヴァットをはじめとする洋品類も充実している名店です。

「そしていつも申分のない服装をしていた。カラーやカフスなどの品品は、シャルヴェで求めていたが、衣類や靴や帽子はロンドンで手に入れていた。」

サマセット・モオムが、1944年に発表した『剃刀の刃』の一節に、そのように出てきます。一度ならず、何度か「シャルヴェ」が出てきます。ただし物語の背景は、戦前に置かれているのですが。
これはエリオット・テンプルトンという、巴里に住むアメリカ人富豪の様子。
でも、私は勝手にモオムもまた「シャルヴェ」のシャツの愛用者だったろうと想像しています。

「シャツはシャルヴェ製、ネクタイはトリプラーやディオール…………………。」

イアン・フレミング著『サンダーボール作戦』の一文。1961年の刊行。これは、ポルトガルの貴族、リッペ伯爵の持ち物という設定。おそらくイアン・フレミング自身も、シャルヴェでシャツを仕立てたことがあるのでしょう。
でも、『サンダーボール作戦』にも、何度か「シャルヴェ」が出てきます。

「白いシャークスキンの上衣の胸ポケットからシャルヴェ製のハンカチを出し、額とこめかみを静かにふいていた。」

これは、「スペクター 1号」の様子。シャークスキンは、光沢のある美しい布地のことです。男のスーツと限ったものではありません。

「彼女は微笑しながらベッドのわきの椅子にかけた。白いシャークの服がよく似合い、美人に見えた。」

昭和三十八年に、立原正秋が発表した『手』の一節。
主人公の「ぼく」は怪我をして、入院。その病院の看護婦が私服で見舞にきてくれる場合。この『手』の最後一行。

「やがて駅がみえ、ぼくは、構内の出入口に立っているシャークスキンを着た女をみた。悪くないと思った。」

ここからの想像ではありますが。いつの日にか、立原正秋は、白いシャークスキンの、美しい女に惚れたことがあるのでしょう。
もちろん男のシャークスキンだって、「悪くない」ものですよ。

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