コニャックは、美味しいものですよね。もちろん、ブランデーの一種。
フランスのコニャック地方で造られたブランデーを「コニャック」」と呼ぶんだそうです。
同じように、アルマニャック地方でのブランデーを、「アルマニャック」
と呼び分けています。
ごく簡単に言いまして、白ワインを蒸留したものが、ブランデー。つまり、白ワインが造れる場所なら、たいていのところでブランデーの可能性はあるわけですね。
要するブランデーはワインの精、エキスというわけであります。
イギリス人はティーに薬効を発見しています。ごくふつうの英国人はなにか悩みがある時、紅茶を飲むことになっているようです。「精神安定剤」でしょうか。
それと似たことがフランス人のコニャックにも言えるでしょう。なにか憂鬱な気分の時には、コニャックが特効薬となってくれるのです。
「それから珈琲を一つ拵えてくれ、コニヤツクを些と餘計に入れて。」
明治三十一年に、尾崎紅葉が発表した『金色夜叉』の一節にも、そのように出てきます。
これは主人の冨山忠継が自宅に帰って来たときの科白。むろん、お宮に対して。
ということは明治二十年代に、尾崎紅葉は、コニャック入りの珈琲があることを識っていたのでしょう。いや、ご本人もすでにそれを飲んでいたものと想像させるではありませんか。
「アルメニアのコニャックがあるんだけど。
あれをすすめたかったんだが、残念!」
昭和四十八年に、小島信夫が発表した『ハッピネス』にも、コニャックが出てきます。
客が来て、酒をすすめる場面。客はワインを選ぶのですが。
アルメニアにブランデーがあるのは事実。ただし「コニャック」と呼ぶべきか否かは意見の分かれるところでありましょう。
アルメニアには、「アララット山」があって。標高5,000メートルを超える。この「アララット」を銘柄にしたブランデーが美味しい。しかもフランス物のブランデーに較べて、手が出しやすい値段でもあります。
もっとも「コニャック」とくればやはりフランス物に限るのでしょうが。さらには「野趣」を想わせるといって、「アルマニャック」を偏愛するむきもあるのですが。
コニャックといえば、永井荷風。若き日のフランス遊学の折には、さぞかしコニャックの杯を傾けたことでありましょう。
「フランス人の下女が果物とコニヤックの酒杯を持運んで立去つた。」
永井荷風著『ふらんす物語』には、そのように出ています。
食後のコニャック、そしてフルーツ。いいですねえ。フルーツとコニャックは、合います。壜の中に漬けたコニャックがあるくらいですからね。
「………黑色の長い面紗をかぶり眼ばかりを見せ、鼻の上に木片の飾りをつけた女が……………………。」
永井荷風の『ふらんす物語』には、そんな描写も出てきます。
ここでの「面紗」は、ヴェエルのことかと思われるのですが。
同じ音の響きで、「綿紗」の言葉もあります。「綿紗」は絹紗に対する言葉で、ガーゼのことです。
「………若い軍人が、沃度保留や、ガーゼや、其他の藥品を……………………。l
明治三十六年に、田山花袋が発表した『春潮』の一節に、そのように書かれています。
ガーゼは、日本語。英語では、「ゴウズ」 g a uz e 。英語としては、1561年頃から用いられているんだとか。
パレスチナの町、ガザ G az a から生まれた英語との説もあります。
要は、薄く、粗い織り方の綿布のこと。昔はよく浴衣地にもなったそうですね。
どなたかゴウズのシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。