チップとチョーク・ストライプ

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チップは、酒手のことですよね。いや、これではなんの説明にもなってないかも知れません。
「酒手」は江戸時代からの言葉で、今ではずっと「チップ」のほうが通りやすいでしょうね。
でも。明治四十一年に、杉村楚人冠が書いた『大英游記』の中にも、「酒手」と書いて、「チップ」のルビを振ってあります。明治の頃の文人は、チップを「酒手」と理解していたのではないでしょうか。
たとえば、江戸時代に、馬子の馬に乗せてもらったとして。馬の賃料とは別に、小銭を渡したもんだそうですね。その心は、「まあ、これで一杯やっておくれよ」。それで、「酒手」なんでしょう。
これが巴里に行きますと、「プール・ヴォアール」。もちろん、「一杯のために」。国は違えど心は同じなんですね。まあ、それだけ昔は何処も「情」があったのでしょう。
日本で、酒手、フランスで、プール・ヴォアールがあるように、英米では「チップ」があります。
チップはなにも多ければ良い、というものでもないらしい。多からず、少なからず。このあたりの塩梅が紳士の心得というものなのでしょう。
チップが出てくるミステリに、『共犯証言』があります。1982年に、スティーヴン・グリーンリーフが発表した物語。

「彼女はその男の名前を呼んだ。男の名前はチップだった。」

これは、とあるテニス・クラブでの様子。つまり、「チップ」なる男は、テニスをしているわけですね。
C ip か、C ipp か。そんな名前もあるんでしょうね。たしか英國に、「ティップトゥリー」という銘柄のマアマレエドがあったような記憶はあるのですが。
『共犯証言』には、こんな描写も出てきます。

「スーツの色はブルー、プレスのきいた三つ揃いだ。黒板に線を引いたように鮮やかな白いストライプが走っている。」

これは、トニー・フルートという暗黒街の黒幕の着こなし。
たぶん、チョーク・ストライプのスーツなんでしょう。チョーク・ストライプは、古典的な柄。おそらく洋服師が生地の上に線を引いている時に生まれた柄かと、思われます。ここでのチョークは、「テイラーズ・チョーク」のこと。つまりは日本語でいうところの「チャコ」のことなのです。
チョーク・ストライプのスーツを着て。過不足ないチップが置けるようになるといいのですがねえ。

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