居間とインヴァーネス

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

居間は、リヴィング・ルームのことですよね。ふだん家の者が居る部屋なので、「居間」なのでしょう。
リヴィングから発展したものに、「リヴィング・キッチン」があります。リヴィングでもありキッチンでもあるので、「リヴィング・キッチン」。便利といえば便利。味気ないといえば味気ない。
まあ、「起きて半畳寝て一畳」とも申しますからね。
そんなことから想うのは、『方丈記』もちもん、鴨 長明であります。鎌倉時代の随筆。1212年の完成。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
名文句であります。鴨 長明は、これを草庵「方丈」で書いた。方丈とは、3、3メートル×3、3メートルの大きさ。それで「方丈」であり、『方丈記』なのですね。
少なくとも家の広さと名文とは、直接には関係なさそうです。雨風凌げれば、それでいいではないか。そんなふうにも思われてきます。ただ、志さえ高ければ。
リヴィングが出てくる小説に、『抱擁家族』があります。昭和四十年に、小島信夫が発表した物語。

「だからこのリビング・ルームに集まるようにという設計なんだがね。」

これは一家の主人、俊介の言葉として。立派なリヴィングがあるから家族が和気藹々と集まってくる。必ずしも
そうではない場合もあるわけで。やはり形よりも心なのでしょうか。
居間が出てくる小説に、『魔風恋風』があります。明治三十六年に、小杉天外が『讀賣新聞』に連載した読物。好評好評、また好評。『讀賣新聞』の部数倍増。いや、それどころか、その日に刷り増しをしたこともあったという。

「………中にも一人娘の芳江が居間だけあツて、此の六畳の装飾………」

また、『魔風恋風』には、こんな描写も出てきます。

「殿井は初めて帽子を脱ぎ、インバネスもするりと其処に投つて、初野に近く腰を卸した。」

「インバネス」。これは「インヴァーネス」inver ness
のことでしょう。スコットランドのネス湖の河口に近い町。ここで織られた厚手の生地を使った旅行用外套にはじまったものです。
どなたか完璧なインヴァーネスを仕立てて頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone