指揮とチョッキ

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指揮は、憧れの的ですよね。
男として生まれたからには、一度でいいから指揮をしてみたい。誰もがそう思うのではないでしょうか。もちろん指揮は男と限ったわけではありません。女性指揮者も少ないけれど、いますから。
燕尾服を着て、指揮棒を持って。客席に背中を向けて良いのは、指揮者だけ。チェリストがいて、ピアニストがいて、ヴァイオリニストがいて………。そういうことから較べれば、コンサート・マスターはわりあい新しい職業なんだそうですね。
昔、フランスで、ルイ十四に寵愛された音楽家に、リュリという人がいるらしい。ジャン・バティスト・リュリ。このバロック音楽の時代には、現在のように指揮者はいなかった。でも、リュリは指揮らしいことを、した。
それは長い、太い、杖を持っていて。この杖で床をとんとん叩く。これが今の指揮代りだったという。ある日、リュリは乗りに乗って、指揮をしているうちに。そのステッキで自分の足を叩いた。1687年1月8日のこと。リュリはこれが元で、床に伏したそうです。
棒では痛いということだったのかどうか。次の時代には、弓を使った。第一ヴァイオリンの奏者が、弓で合図した。この弓が後に指揮棒になったという。「弓」が出てくる小説に、『失われた時を求めて』があります。

「オーケストラの指揮者が、誰かが音を立てると、弓を叩いて演奏を中断させるように………」。

マルセル・プルーストの時代にもまだ、「弓」の印象があったのでしょうか。また、こんな描写も。

「白いチョッキではなくてモーヴのチョッキでね。棕櫚の葉をあしらった模様がいくつも附いていたらしい。」

これは、燕尾服に合わせるチョッキのこと。プルーストの時代には、そんな着こなしもあったんですねえ。

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