パンは、まず飽きることのないものですよね。どうしてパンは飽きないのか。
それは簡素の極致だからでしょう。たとえば、バゲット。フランスパンの代表選手。バゲットは小麦粉を練って焼いただけ。そう言って過言ではないでしょう。まことに、シンプル。だからこそ、毎日のように食べることができます。
食事に添えるパンとして、バゲットは重宝するものです。皿に残っとソースをバゲットで絡め取ってみたり。
人の好みも様ざまで。バゲットの皮が好きな人と、中身が好きな人とがあります。ある食通が言いました。
「ああ、どこかに皮だけのバゲットがないものか…………」。
残念ながら皮だけのバゲットはありませんが。ただ、馴染みのレストランで好みを覚えてもらったなら。なるべく皮のところの多いバゲットが出てきたりすることはあるようですが。
昔、フランスではパンを焼くのに、直火を使ったという。1910年頃までは。それはアーチ状の窯で、窯の中央に薪燃やして、焼いた。このアーチ状の窯は古代ギリシア時代からの伝統だったそうですから、古い。
その後は「グラール」という窯になった。「グラール」でもフランスのパン屋は、細い枝のような木を薪に使って。このパン屋で使った薪を燃やした後が、恰好の炭になった。つまり画家が多くデッサンに使った。で、そのデッサンの「炭」を消すのに使ったのが、パンの中身だったわけですね。
磯村尚徳著『ちょっとキザですが』の中に、フランスパンの話が出てきます。
「あの世界に名高いフランスパンは、手づくりが基本で、パン工場は、パリに三つしかありません。
1970年代のパリでは量産のパリ工場は、それほど多くはなかったのでしょう。また、『ちょっとキザですが』にはこんな話も。
「 「パス・パルトゥ」 という気軽に、どこにでも着て行けるスーツを作った時は、文字通りブームとなったのでした。」
これは1954年頃、シャネルが「パス・パルトゥ」passe partou を発表した折のことです。「パス・パルトゥ」は、「合鍵」。つまり何にでも合う服の意味なのでしょう。
もし男の「パス・パルトゥ」を考えてみるなら。ダーク・ブルーのスリーピース・スーツでしょうか。シングル三つボタン上一つがけの。これなら、いつ、どこでも「合鍵」のように使える服装だと思うのです。もちろん美味しいパン屋に行く時にも。