箱根は、いいところですよね。景色が美しい。空気が美しい。箱根は歌にも歌われて。
♬ 箱根の山は 天下の嶮 函谷関も ものならず……………
『箱根八里』は、よく知られています。これは、鳥居 忱の作詞なんだとか。作曲は、瀧 廉太郎。
瀧 廉太郎作曲の『箱根八里』は、「ヨナ抜き」で、作られているんだそうですね。音階の「ド」から数えて四つ目の「ファ」と、七つ目の「シ」が省かれているので、「ヨナ抜き」。この「ヨナ抜き」こそ日本音楽の特徴だとするお方もいるようですね。
ところが、スコットランド民謡の『蛍の光』もまた、「ヨナ抜き」。スコットランドと日本の感性、どこか似ているのでしょうか。
箱根が出てくる小説に、『箱根細工』があります。三島由紀夫が昭和二十六年に発表した短篇。題は『箱根細工』ですが、直接「箱根細工」が出てくるわけではありません。こみいった人間模様を、「箱根細工」に喩えてのことかと思われます。
ただ、物語の背景が箱根であるのは、間違いありません。この中に。
「彼はふいにアロハの袖に寒気を感じた。」
「彼」とは、物語の主人公、「松原秀夫」という設定。二十一歳の若者。銀座の「丹後商会」の店員。「丹後商会」は、写真機店。それが箱根に社員旅行に行くことになって……………。
この「アロハ」は、アロハ・シャツのことなのでしょう。この「アロハ」は、文中に何度か出てきます。三島由紀夫の小説に描かれる「アロハ」としては、わりあいはやい例でしょう。
「アロハ・シャツ」は、多く日本で用いられる言葉。アメリカでは「ハワイアン・シャツ」が一般的。これはひとつには「アロハ・シャツ」は固有名詞という印象があったからでしょう。
1936年7月。ハワイ、ホノルルの、エルリイ・チャンという人物が「アロハ・シャツ」の商標登録を行なっているから。まあ、「アロハ」はハワイ語、「ハワイアン」は英語でもありますし。
もっとも「ハワイ」と言うと、ご機嫌斜めの人もいたりして。ハワイの正しい綴りは、Hawaii で、「ハワイイ」と言いなさい、というわけです。
それはともかく。ハワイアン・シャツを着て、箱根に行きたいものです。『箱根細工』の「松原秀夫」に倣って。