蛙は可愛いものですよね。蛙の置物ばかりを蒐めている人がいるくらいに。
蛙はまた諺にもよく登場します。「蛙の頬被り」とか。蛙は目が後ろについているので、頬被りすると前が見えなくなる。で、前が見えない状態のことを、「蛙の頬被り」と形容するんだとか。
あるいはまた、「蛙の子は蛙」。蛙の子はオタマジャクシで、大きくなったらどんな風になるのか、見当がつかない。でも実際には大人になってみれば、蛙。で、「蛙の子は蛙」。
蛙の子は蛙の、ひとつの例が、ジャン・ギャバン。往年の、フランスの名優であります。
『現金に手を出すな』、『赤い灯をつけるな』、『地下室のメロディー』…………………。多くの名作があります。
ジャン・ギャバンのお父さんもまた「ギャバン」の芸名で、ボードビリアンだったのです。お母さんも、芸人。まさしく「蛙の子は蛙」であります。
そのジャン・ギャバンに道がひらけたのは、1928年のこと。キャバレーでのギャバンの芸が、ミスタンゲットの眼に留まったのです。つまり、ミスタンゲットの相手役に抜擢されたわけですね。ミスタンゲットは当時の大女優。ミスタンゲットはそれ以前には、モオリス・シュヴァリエと組んでいたのですが。シュヴァリエの後釜に選ばれたのが、ジャン・ギャバンだったのです。
それから後のギャバンの活躍はいうまでもないでしょう。
1952年の3月。ジャン・ギャバンの自宅に電話したのが、アンドレ・ブリュヌラン。アンドレ・ブリュヌラン著『ジャン・ギャバン』に出ている話なのですが。
アンドレ・ブリュヌランは、アルジャントゥイユでの、ある映画会に、ジャン・ギャバンを呼びたかったので。幸いギャバンは出席を快諾。ブリュヌランは、ギャバンを自宅に迎えに行く。その時のギャバンの様子。
「カシミヤのポロシャツの広く開いた襟からは、ゆるく結んだ絹のマフラーがのぞいている。」
もちろん、ジャン・ギャバンの、ふだんの着こなし。
いいなあ、カシミアのポロ・シャツ。カシミアのポロ・シャツにシルクを巻いて、ギャバンの映画を観に行きたいものですね。