寝巻とネル

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寝巻、夜寝る時に着るものですから、「寝巻」なんですね。「寝衣」とも言ったようですが。
今は、たいていパジャマという人が多いのではないでしょうか。パジャマは洋式寝衣。これに対して寝巻は、和式寝衣。ごく簡単に言って、着物式の寝衣だったのです。私なんかもパジャマよりも、寝巻のほうに強い郷愁を感じるひとりなのですが。大きく分けて、戦前までの日本人は多く、寝巻。戦後になったからだんだんとパジャマが入ってきた、そんな感じがあります。たとえば。

「葉子は自分の部屋に帰った。そして洋風の白い寝衣に着かえて、髪を長い編下げにして寝床に入った。」

これは有島武郎の『或る女』の一節。「寝衣」の脇には、「ねまき」とルビが振ってあります。『或る女』は、大正八年の発表。これは外国航路の船上での様子。「葉子」が着たのはたぶんパジャマなんでしょう。が、それを「寝衣」、つまり寝巻と表現しています。
永井荷風の随筆に、『紅茶の後』があります。その昔、『三田文學』に連載されたものです。この中に。

「寝衣の襟も裾もあられなく引掻き亂して夜具の上に……………………。」

ここでも当然のように、「寝衣」と出ています。まあ、パジャマ姿の荷風はちょっと想像できませんからね。
永井荷風が愛唱した詩に、『片戀』があります。永井荷風は、『片戀』と題して筆を執っています

「自分はこの詩を三しょうした。」

「この詩」が、『片戀』であるのは、言うまでもありません。もちろん、北原白秋の詩。では、『片戀』はどんな風にはじまるのか。

あかしあの金と赤とがちるぞえな。
かはたれの秋の光にちるぞえな。
片戀の薄着のねるのわがうれひ………………。

ここの、「ねる」はネルのこと。英語のフランネルを短くして、「ネル」。そしてまた、フランネルの後ろ半分を省略したのが、「フラノ」。
さて、ネルのシャツを着て、白秋の詩集を探しに行くとしましょうか。

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