ヴァイオリンは、ヴィオロンのことですよね。
ヴァイオリンを上手に弾くのは、難しい。難しいからこそ、弾いてみたい人も少なくないのでしょう。
シャーロック・ホームズの趣味のひとつが、ヴァイオリン。ということは、作者のコナン・ドイルも、ヴァイオリンの音色に耳傾けるのが、お好きだったのではないでしょうか。
ヴァイオリンは、英語式。ヴィオロンは、フランス語式。
秋の日の
ヴオロンの
ためいきの
これは、ヴェルレエヌの『落葉』と題する詩のはじまり。訳詩は、上田 敏。
上田 敏は、「ヰ」に濁点で、ヴィと訓ませています。でも、「ヰ」に濁点の文字が探せませんでしたので。
秋の日の
ヴオロンの
ためいきの
これは上田 敏の『海潮音』に出てくる名詩、名訳であります。『海潮音』は、明治三十八年の十月、「本郷書院」から出ています。
上田 敏は明治七年十月三十日の生まれです、三十二歳の時のこと。
ヴェルレエヌはもちろんとして、『海潮音』によってはじめて翻訳された名詩がほとんどだったものであります。
ヴィオロンがお好きだった少年に、若き日の伊丹十三がいます。昭和二十五年頃のことですから、「池内義弘」の本名だったでしょうが。
伊丹十三は、1933年5月15日、京都に生まれていますから、十六歳くらいの頃ですが。
「弟はヴァイオリ二ストになる、といっている ー 彼はいかにも軽蔑したという調子でいったが、全部が彼の差し金であったのは見え透いていた。」
伊丹十三著『ヨーロッパ退屈日記』に、そのように書いています。
「彼」とは、松山で仲良くなった、音楽狂の友人のこと。「彼」は音楽狂が病嵩じて、弟をヴァイオリ二ストに仕立てようと、考えたのであります。その後。
「毎日、四時間も五時間も弾いた。それが二年くらい続いた。わたくしは自分の生涯の余暇を悉くヴァイオリンに捧げても惜しくない、と真剣に考えた。」
もちろん『ヨーロッパ退屈日記』の一節に、出ています。
結局、伊丹十三は独学で、ヴァイオリンを弾きこなすことに。そのための教則本が、カール・フレッシュ著『ヴァイオリン奏法全四巻』であったとも。
伊丹十三著『ヨーロッパ退屈日記』には、靴の話も出てきます。
「横縞のシャツに木綿のズボン、それにドッグ・シューズでヴェニスの街を歩くということは少しの抵抗も感じずにやれれのである。」
「ドッグ・シューズ」は、伊丹十三の命名かと思われます。
一枚革のスウェードで、スリー・アイレッツの紐結びで。ポインテッド・トゥになった靴。
伊丹十三は、その「ドッグ・シューズ」を買うためだけに、ロンドンからヴェニスに、自動車を走らせるのであります。
ああ、男がおしゃれをすることは、なんと素晴らしいことなのでしょうか。