鞄とカポート

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鞄は、バッグのことですよね。革で包むと書いて、「鞄」。
「鞄」は明治になってから、日本で作られた漢字なんだそうですね。江戸の頃には「鞄」の文字はなかったという。
鞄は旅を想わせるところがあります。「旅鞄」と言うではありませんか。そしてまた、「旅行鞄」とも。
たとえば一泊旅行であったなら、着替えと、パジャマに歯ブラシを詰めるあたりから、旅ははじまっているのでしょう。
細川光洋の書いた本に『吉井勇の旅鞄』があります。吉井 勇は、歌人。『酒ほがひ』は、代表歌集でしょうか。
吉井 勇もまた旅を愛した歌人で、旅から多くの歌を詠んでおります。

この鞄 机代りとして 書きし紀行もいつか古りにけらしも

そんな歌を詠んでおります。昭和三十一年に発表した『形影抄』に収められているのですが。この外にも、吉井 勇は、旅鞄を多く詠んでいます。
吉井 勇の旅鞄。今、京都の「歴彩館」に所蔵されていて。縦、35センチ。横、54センチ。厚さ、16、5センチの大きさなんだそうですね。
上蓋を被せる式の革鞄で、「I、Y」の頭文字が刻印されて。銀座の「ゴキ」という店に注文した鞄とのことです。

昔の旅鞄には、大きいものもあったようです。なにしろ船旅の時代だったから。
2005年に、伊集院静が発表した随筆集に、『旅行鞄にはなびら』があります。この中のひとつに、『父の旅行鞄』も収められて。

「横百五十センチ、高さ八十センチ、幅五十センチはあろう大きな革鞄で、妹などは鞄の中に、ごろんと寝ることができた。木製の枠に革張りがしてあり、中はシルク地の布貼りがしてあった。」

伊集院静は、そんなふうに説明しています。
では、伊集院静ご本人の旅鞄はどうだったのか。

「いささか放浪癖があった私は旅は手ぶらで行く、が基本であったから、ちいさな鞄ひとつで、どの国も歩き回った。」

伊集院静著『旅行鞄のガラクタ』には、そのように出ています。

鞄が出てくる小説に、『ある殺人者の告白』があります。1936年に、ヨーゼフ・ロートが発表した物語。

「わたしには彼が自分の赤い革のカバンから旅券の用紙を一部取出すのが見えました。」

これは「ラカトス」という男の仕種として。また、『ある殺人者の告白』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「ペルシア子羊の皮製の一種のあごひも付きカポートをかぶり、銀色の懸れ総の付いた北極狐のフード付コートを着て」

これはあるモデルの着こなしとして。
「カポート」capote
は、柔らか、小型の帽子のこと。中世の衣裳に、「カポート」と呼ばれるフード付きの外套があって、そのフードが後に帽子になったので、その名前があります。
どなたか男性用のカポートを作って頂けませんでしょうか。

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